武蔵野美術大学 美術館・図書館 イメージライブラリー

IMAGE LIBRARY NEWS イメージライブラリー・ニュース第2号

「NFB」のフィルムライブラリーとアニメーション研究 

文=陣内利博(武蔵野美術大学教授、日本アニメーション学会機関誌編集委員)
 
 皆さんは、話題の映画や過去の名作を見る場合、レンタルビデオ屋でビデオを借りたり、衛星放送やCS放送を利用することが多いと思います。私が武蔵野美術大学に学んだ20年程前の時代は、こんなに手軽に映像を観られるビデオというものはありませんでした。当時武蔵野美術大学には映像学科はなく、視覚伝達デザイン学科の専門過程にアニメーションと映像のコースがあるだけでした。制作を重視したこれらの授業では、過去の作品を見る機会は少なく、学生達は自分で作品を見る機会を作らなければなりませんでした。2本立て、3本立ての映画館をハシゴしたり、自主上映会に参加し、「見た?」「知っている?」とそれぞれの観た作品数を競い合ったものでした。
 当時カナダ大使館では、無料でフィルム作品を貸し出していました。これらは、カナダ国立映画制作庁(NFB)のドキュメンタリーやアニメーションで、私も何度か借りに行った記憶があります。しかし10年程前、カナダ大使館は、〈NFB〉のフィルム貸し出し業務の停止を決めました。幸い、これらのフィルムは日比谷図書館と札幌の視聴覚センター、そして静岡県立中央図書館に分散管理されることになりました(*1)。その後も、視覚伝達デザイン学科では静岡県立中央図書館から、授業のためにフィルムを借り出してきたのですが、1999年になって静岡県立中央図書館から「館の事情で、フィルムは大使館に返却しますので来年からはお貸しできません。」といわれてしまいました。大使館に確認したところ、返却された全500巻のフィルムは、廃棄処分になるということでした。武蔵野美術大学では大使館に対して「是非、大学として保管し、研究活動に活用させて欲しい」と要望しました。大使館から「著作権、使用方法に留意し、再契約を取り交わす条件で」全フィルムを武蔵野美術大学に移管する用意があるとの回答を得ました。
時を同じくしてイメージライブラリーでは、これまで映像資料として収集してきた「ビデオテープ」や「レーザーディスク」に加え「フィルム」も保存・収集するということで準備が進められていました。こうした条件が重なって〈NFB〉のフィルムを焼却せずに本学に移管することができました。来年には正式に「武蔵野美術大学のNFBライブラリー」としてフィルム上映できるものと楽しみにしています。(*2)

 カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada)は、当時イギリスのドキュメンタリー映画の創始者といわれるジョン・グリアスンを局長に招いて1939年に設立されました。その下でアニメーション部門の主任となるのが、イギリスのグラスゴー美術学校でインテリアデザインを学んだノーマン・マクラレンです。マクラレンはアニメーションのさまざまなテクニックを生み出しました。たとえばパステル・メソッドという技法がうまれたいきさつについて「絵画を描く行為、絵画よりも絵画すること、完成品ではなくそこに至る過程に重点を置こうと考えた。」と書いています。彼はその自由な作風で、カナダのみならず世界のアニメーション映画の代表になりました。また若手の育成にも熱心で、イシュ・パテルライアン・ラーキンキャロライン・リーフといったさまざまな後継者を育てました。こうした人々に支えられた〈NFB〉は、今でも世界のドキュメンタリーやアニメーションの創作活動の中心的存在です。さらにコンピュータによる新しい映像制作技法の開発や、映像と教育の関係に着目した活動などさまざまな領域において先進的な活動を続けています。武蔵野美術大学でその〈NFB〉のライブラリーを持つことは、そうした先進的な活動にも直接の回路を持つことになり、研究の輪が広がっていくことになるでしょう。私の所属する日本アニメーション学会(*3)では、現在マクラレンの活動を中心にアニメーションの歴史を読みとく試みや、映像が教育の分野にどのように関わってきたのか、技術の発達とともに今後どのような可能性を持っているのかの検証をはじめています。

※初稿:1999年11月/補稿:2009年3月


イメージライブラリー註釈
*1 日比谷図書館所蔵の16ミリフィルムは、平成21年4月に都立多摩図書館に移管されました。
*2 イメージライブラリーでは2000年、2005年、2009年にNFBのフィルム上映会を開催しました。
*3 1998年に設立された日本初のアニメーション研究機関。機関誌における論文公表のほか、毎年開催されている大会では、研究発表のみならずアニメーション作品の発表の場も設けられています。2001年には武蔵野美術大学にて日本アニメーション学会第三回大会が開催され、川本喜八郎監督、押井守監督、映画評論家・登川直樹氏による講演会などが催されました。

カナダ国立映画制作庁(NFB)について

文=イメージライブラリー

  NFBはカナダの風土や文化を知らしめることを目的として1939年に設立された。その背景には、イギリス系、フランス系、エスキモーなど、多様な民族と文化を持ち、さらにアメリカの文化の影響を受けるカナダという国の複雑な問題があった。
 創立直後に招かれたノーマン・マクラレンは、NFBのアニメーション部門において様々な手法を用いた実験的な作品を制作し、NFBの若い人材の育成や映像技術の発展にも力を注いだ。初期のNFBでは、アメリカの大きなスタジオでしているような流れ作業をするのではなく、紙や鉛筆やハサミなど制作ツールが限られた中でも制作者として映画の芸術や技術的な面に責任を持つ、という理念があった。これは、制作者を商業ベースのプレッシャーから解放し、新しい表現手法を追求する自由を与えた。
 またNFBのアニメーションの特徴は、ほとんどセリフやナレーションをもたない点にある。マクラレンはアニメーションで一番大切なのは「動き」以外のなにものでもない、「1コマ1コマのそれぞれの絵は、コマの間にあるものほど重要ではない」「映像で何かを表現しようと思うなら言葉を持たない映像と音自身に対してセンシティブにならなければならない」と語っている。これらの作品の造形的な魅力と言葉に頼らない作品を貫くテーマは言語を超えて世界中の人々に受け入れられてきた。

 これらの作品の多くは一般にはアニメーション映画祭などのごく限られた機会にしか見ることができない。イメージライブラリーでは97年度よりドキュメンタリー作品も含めたNFBの作品収集を始め、現在ではVHS202本、16mmフィルム495本、さらにDVDも収蔵している。

NFBのアニメーション技法

文=下川久美香、狩野志歩、木村美佐子、田中友紀子(イメージライブラリー・スタッフ)

アニメーションは一体どうやってつくられるのでしょうか? 絵や人形など、それ自体は動かないものを少しずつ変化させ、1コマずつ撮影することで、様々な動きのある映像をつくることができる−それがアニメーションです。ということはつまり、あらゆるものはアニメーションによって動きを与えることができるのです。何をアニメートするかはアイデア次第です。今までにもたくさんの作家たちによって様々な技法が編み出されてきました。ここではNFBのアニメーションより、その一部を紹介しましょう。


ピンスクリーンのアニメーション
厚さ2.5cmの板の面に約100万個の穴があり、そのそれぞれに刺されたピンは表、裏の両面から押すことでその高低を調節することができる。押し出されたピンが長い時、その影が黒く長くなることで全体の陰影が変化する。ピンスクリーンの表面は、極めて敏感でなめらかなベルベット地のように扱われ、そこから表現される白から黒までをつなぐハーフトーンは、とても美しいグレースケールを生み出す。それぞれの絵はコマ撮りされ、美しくなめらかな動きのアニメーションとなる。
これは製版や印刷術における写真製版の網点やメゾチントと呼ばれる銅版画技法に通じる考え方である。考案者であるアレクサンドル・アレクセイエフの版画・出版物に関わる幅広い活動のなかから生まれた技法である。
■主なピンスクリーン作品
禿山の一夜」「」「展覧会の絵」「道すがら」 監督:アレクサンドル・アレクセイエフ
心象風景」「エクスチャイルド」監督:ジャック・ドゥルーアン
ナイトエンジェル」監督:ブジェチスラフ・ポヤルジャック・ドゥルーアン


砂のアニメーションとその発展形
ガラス板を砂で埋め、指や道具で砂を部分的に排除して形を作る。背後から光を当てると、砂の厚みの違いが透過光量に微妙なトーンを与え、深みのある淡いシルエット像が浮かび上がる。それを1コマ撮影し、動きを考えながら砂を加えたり除いたりして次の1コマを撮影し、その作業を繰り返す。
キャロライン・リーフはその砂のアニメーションから発展させて、水性塗料にグリセリンを加えたものをガラス板に直接指でなすりつけて描く方法でも制作している。そして砂の素材では表現できなかった豊かな色彩を獲得した(『ストリート』)。また、イシュ・パテルも同じく透過光を利用してアニメーションを制作しているが(『死後の世界』)、素材として粘土を思いついた経緯はユニークだ。フィルムを窓に貼ろうと、彼はテープの代わりに少量の粘土を使って強く押当てた。赤い粘土は外の光を透かして美しく輝き、彼はその技法を思い立ったのだ。
■主な砂のアニメーション作品
変身」「がちょうと結婚したふくろう」監督:キャロライン・リーフ


立体アニメーション
人形やオブジェ、または粘土等の素材で形づくられた立体を、1コマごとに少しずつ動かして撮影し動きを作り出していく手法。人形アニメーション、クレイ・アニメーションなど。
■主な立体アニメーション作品
マトリオスカ」「」監督:コ・ホードマン
バルゴニーの鳥人」監督:ブライアン・ドゥフシェラー
ジューク・バー」監督:マーチン・バリー
  

カメラレス・アニメーション
カメラを使わず、フィルムに直接引っ掻きキズをつけたり着彩する。黒味のフィルムを針などで引っ掻いて1コマずつ絵を描くシネカリグラフ、透明なフィルムに直接描くダイレクト・ペイントなどがある。
■主なカメラレス・アニメーション作品
色彩幻想」「線と色の即興詩」監督:ノーマン・マクラレン


ピクシレーション
ライブアニメーションともいわれるこの技法は、人物などのライブアクションをカメラで非連続にコマ撮りする。実写でありながら、カクカクとした奇妙な動きになるのが特徴である。
■主なピクシレーション作品
隣人」「マクラレンの開会の辞」監督:ノーマン・マクラレン


切り紙アニメーション
紙等の平らな素材に描かれた絵を切り抜き、それらを背景に載せ、1コマごとに動かしながら撮影する方法。素材は水平に配置され、カメラは素材に対してまっすぐ下を向いている。
■主な切り紙アニメーション作品
欲張りブルージェイ」監督:イブリン・ランバート
ロード・オブ・スカイ」 監督:エウゲン・スパーレニー
パラダイス」監督:イシュ・パテル


「カナダ国立映画制作庁(NFB)について」「NFBのアニメーション技法」参考文献
登川直樹編『講座アニメーション2 世界の作家たち』美術出版社、1987年
伴野孝司、望月信夫『世界アニメーション映画史』ぱるぷ、1986年
『映像の先駆者ノーマン・マクラレン』レーザーディスク、パイオニアLDC

(Web版イメージライブラリーニュースへの掲載に当たって、内容の一部を割愛・編集しております。名称・役職名等は掲載当時のものです。)