華やかなパリからは想像もつかないような貧困に満ち、移民や低所得労働者など疎外された人びとが集まる郊外（バンリュー／Banlieue）。そこにあるミュゲ団地で深夜、社会への不満から若者たちが暴動を起こした。そして翌日、警官たちが鎮圧のためにアブデルという少年を暴行したというニュースが報じられる。彼の友人であるユダヤ系の青年ヴィンツは、二人の友人サイードとユベールと共に病院に訪れるが、そこでも警官と衝突。さらには彼らの居場所であったビルの屋上からも立ち退きを命じられ、ますます不満と憎しみを募らせていく。怒りが頂点に達したヴィンツは、暴動の混乱のなかで偶然拾っていた警官の拳銃を握るのであった……。 現実に起きた暴動事件をモチーフに、社会が生んだ偏見と矛盾が三人の若者たちにもたらす運命を描いた作品で、1995年のカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞している。なおフランスの郊外＝バンリューは、単なる地理区分を示すのみならず、また上述の通り、中流階級のユートピアとして夢見られた日本の郊外やアメリカのサバーブ（Suburb）とも全く異なった社会的・文化的意味が付与された語である。荒廃したバンリューは、本作のほかにも、近年のフランス映画においてしばしば物語の舞台として描かれている。代表的な作品としては『パリ20区、僕たちのクラス』（ローラン・カンテ監督、2008年）や『アルティメット』（ピエール・モレル監督、2004年、原題は「Banlieue 13」）、『身をかわして』（アブデラティフ・ケシシュ監督、2004年）などが挙げられる。