1961年に39才で夭逝した映画作家アンジェイ・ムンクの遺作。ポーランドの作家ゾフィア・ポスムイシュによるラジオ・ドラマを原作に、ホロコーストの記憶を巡って葛藤する二人の女性を描いた作品。 ドイツ人のリーザは、夫と共に豪華客船で故国のドイツへと向かっていた。彼女は戦中アウシュヴィッツの強制収容所でSS（ナチス親衛隊員）として勤務していたが、戦後はアメリカに移住しており、今回数十年ぶりに故郷へ帰省するところだった。船は途中でイギリスの港に停泊し、そこで一人の女性が乗船する。その女性はリーザがかつて強制収容所で出会った女囚マルタと瓜二つだった。リーザの脳裏には、非人間的な強制収容所で自分とマルタの間に起こった出来事の記憶がまざまざと浮かび上がる。リーザは加害者としての自分の行いを思い起こし良心の呵責に苦しむのだった。 本作は実際のアウシュヴィッツ強制収容所にて撮影が行われた。撮影途中で監督が不慮の死を遂げた為、ヴィトルト・レシェヴィッチをはじめとするアンジェイ・ムンクと親交のある映画人たちが彼の意志を継ぎ、スチル写真を補うことで本作の形に作り上げて公開した。 1964年カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞・特別賞、ヴェネツィア国際映画祭イタリア映画批評家賞、他多数受賞。