アイルランド西端に位置するアラン諸島は、一面が岩に覆われ、断崖に容赦なく荒波が打ち付ける不毛の地だ。そして本作は、そのような過酷な環境の中で生きる島民たちの生活を描いた作品である。彼らは岩を砕き、そこから採れるわずかな土を用いて土壌をつくり、じゃがいもを栽培する。漁師たちは海に船を出し、2日間にわたる死闘の末、巨大なウバザメを捕獲する。サメの肝臓を煮詰めれば、貴重な灯油を採ることができるのだ。 ドキュメンタリー映画の父と呼ばれるロバート・J・フラハティが一年半に及ぶロケによって撮り上げた作品であり、彼の最高傑作と呼ばれることも多い。その映像はいま見てもじゅうぶんに迫力があり、とりわけ海岸の人びとを波が襲うシーンは、印象的なショットをテンポよくつないでいく編集の妙もあって、臨場感と同時に、モノクロの映像美をも感じさせるものになっている。出演者はすべて現地の素人であるが、作中に登場する家族は本当の家族ではなく、さらに彼らの行為やそれを捉える構図・カット割にはフラハティの計算された演出が施されている。当時と現在では「ドキュメンタリー映画」というものの定義や捉え方そのものが異なっているのだ。この映画は、かつてアラン島に暮らしていた人びとの生活を窺える貴重な記録であるだけでなく、「ドキュメンタリーとは何か」という根本的な問いに私たちを何度でも立ち戻らせてくれる作品でもあるだろう。なお本作は、1934年にヴェネツィア国際映画祭・最優秀外国映画賞を受賞している。

作品キーワード：土，記録映画