アメリカ、フランス、ベトナム、アフリカへと海外ロケを敢行し、多様な環境に生きる母親たちの姿を、シナリオなしに即興的に撮影した映像詩。アメリカ・ニューヨークのハーレムに生きる黒人の母親、フランス・パリの平穏な家庭の母親、ベトナム・コンデルタの戦時下に苦しむ母親、アフリカ・新興国ガーナで逞しく生きる母親…。普遍的な母子の姿を捉えつつ、その背後にはそれぞれの国の社会的背景が見て取れる。黒人差別やベトナム戦争など、見え隠れする松本俊夫の視点は限りなく厳しく鋭い。添えられた詩は寺山修司の手によるもの。 プリマハム創業35周年記念に製作された映画。国際的な映画祭で賞を獲ることがスポンサーの要請のひとつであったこともあり、当時映画界から孤立していた松本俊夫は、一般的でわかりやすい映画を撮ることによって映画界への復帰を図り、本作に挑んだ。その狙いは的中し、本作は第18回ヴェネツィア国際記録映画際グランプリを受賞。それを足がかりに、松本俊夫は『薔薇の葬列』（68）等の映画製作の機会を得るのだった。

作品キーワード：シネポエム，家庭，家族，子供