ハーカーは土地の売買契約を結ぶために、ルーマニアの伯爵の城を訪ねた。伯爵は痩せていて、奇妙に尖った長い耳、不気味に伸びた指をもつ異様な男だった。その夜、ハーカーは伯爵に首筋を噛まれて血を飲まれるが、翌晩は家でハーカーの帰りを待つ妻ニーナの霊感によって助けられる。伯爵は吸血鬼だったのだ。伯爵はハーカーを部屋に幽閉すると、その間に棺ごと船に乗りブレーメンの街に向かった。やがて伯爵が街に到着すると、伯爵と共にやって来たネズミによってペスト菌がばらまかれ、以降街に葬列が絶える日はない。この事実を知ったニーナは、我が身を犠牲にして吸血鬼退治に挑む。 吸血鬼を描いた古典的作品で、ドイツ・ロマン派的雰囲気を持つサイレント映画である。馬車が吸血鬼の城に向かうシーンをモノクロ反転したり、ニーナに迫る吸血鬼を影で描くなどの映像効果がほどこされている。原作小説「吸血鬼ドラキュラ」の使用が許されなかったために、かえって美しい結末が与えられている。 この映画は最初の上映以降、原作者との著作権問題闘争の中で多くのシーンがカットされ、そのため世界で普及したのはオリジナルでなく64分に短縮されたアメリカバージョンだった。本作は2005年から2006年にかけてF・W・ムルナウ財団の求めにより復元されたものであり、パリのシネマテーク・フランセーズに所蔵されていたプリントを基に、欠けたショットをチェコなどで保存されていたフィルムで補足した完全版である。