江戸深川の貧乏長屋に住む浪人の海野又十郎は仕事を得るため、唯一の頼みの毛利三左衛門という侍のもとへ毎日足繁く通うが、父親の恩義も忘れられ邪険に扱われる。毛利三左衛門は木場の老舗白子屋の娘お駒を家老の息子に嫁がせる為の手引きを依頼されていた。一方、又十郎と同じ長屋に住む髪結い新三は、賭博で金が尽きてしまい、白子屋に借金を頼みに行くが、番頭の忠七に冷たく断られ、かねてから睨まれていた源七親分の子分にさんざん痛めつけられてしまう。頭にきた新三は縁日の晩にお駒を誘拐する。隣に住む又十郎は新三をかばうためにお駒をかくまってやるのだった。白子屋をはじめ、三左衛門、源七は大慌てするが、結局五十両でけりがつき、長屋の連中は酒盛りをはじめる。そこへ又十郎の女房おたきが帰宅して、人々が又十郎が誘拐の片棒をかついだと噂しているのを耳にする。そこまで落ちぶれたかとおたきは心中を決意し、内職用の包丁を取り出すのだった。新三も源七親分に呼び出され、死を覚悟しながら橋へ向った。 この作品が封切られた同じ日に監督の山中貞雄は召集令状を受け、帰らぬ人となった。フランソワ・トリュフォーも深く愛したといわれる歴史的名作である。尚、山中は20数本の作品を撮ったが現存するのはこの作品を含めて3本だけである。

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